年齢不詳な若人が唄の話を中心にアレコレと・・・


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「巴里の空の下オムレツのにおいは流れる」(石井好子・著)文庫化

歌手・石井好子がエッセイスト・石井好子、料理愛好家・石井好子、"オムレツの石井"としても知られるようになったきっかけとなった、エッセイ集「巴里の空の下オムレツのにおいは流れる」が河出文庫に収められ、装い新たに発売されたそうです。

暮しの手帖社から発売されたのが昭和38年(1963年)ですから、約半世紀を経ての待望の文庫化。
一般に読まれる寿命が短い(絶版にされやすい)とされるエッセイとしては異色ともいえる、約50年も長きに渡って読まれて来た隠れたロングセラー。古典的(古くて新しい)名作として磐石の地位を築いています。
石井好子は生涯20冊以上の本を出していますが、これほど長く読まれている著書・発売され続けている著書は他にありません。間違っても、一歌手の御手軽エッセイ、などでは無いのです。

勿論、本人が長生きで生涯現役だったというのもあるでしょうが、亡くなったのが80歳代後半であることを考えると、それが一番の理由であるとは思えません。
エッセイストとしての活動が盛んであったのは昭和時代ですし、歌手として長く現役でメディア露出も多い人ではありましたが、若年層にまで認知されていたかといえば、それはまた微妙な話・・・。

本の話に戻ります。
だいたい、歌手や役者、タレントが書く本はどうしても本職の方と比べられて、1段も2段も低く見られがち。
本人へのインタビューをもとに編集者やフリーライターがまとめたものが大半ですし(ただ、そういう形であっても、話す内容が面白ければ、ある程度読むに値するものになっていくと思います)、読み物としてレベルが高いかというと、これもまた微妙であったり、その著者に興味の無い人には何の魅力も無い内容であったり・・・。
発売から5年も経てば在庫も無くなり、絶版で中古市場を探すことになるのが相場でしょう。

勿論、筆の立つ人や含蓄のあることが書かれているものあります。
高峰秀子、池部良、沢村貞子、森繁久彌、中村伸郎、八代目坂東三津五郎、花柳章太郎、中村メイコ、宮城まり子、内海桂子、三國一郎、益田喜頓、徳川夢声、黒柳徹子、檀ふみ、冨士真奈美・・・のようにエッセイストとしても地位を築いた方、小説やショート・ショートも書いた方、ベストセラーを出した人もいますが、やはり数はそう多いとは言えません。
ここに名前を挙げた人たちでも既に著書の入手が難しくなっている人も結構おります。残念なことです。

あまり知られていないようで勿体無いのですが、当代水谷八重子、旧芸名水谷良重のエッセイ、私は好きです。彼女の自叙伝「あしあと」や井上ひさしとの往復書簡は良いです。各所で書いたエッセイを集めて、犬やネコ、食べ物、旅、舞台、役者・・・テーマ別に分けて、それをちょっと加筆や修正して、ぎゅっとまとめれば良いエッセイ集が出来るはず。どこか、やりませんか?

あと、本人が筆を執ったのかは定かでは無いですが、音曲漫才トリオ「かしまし娘」の長女で女優の正司歌江の「女やモン」も良かった。生まれたときからの芸人・旅暮らしの日々、恋、修羅場、ヒロポン中毒、芸者への転進・・・かしまし娘として再起するまでの半生を赤裸々に綴った名著。昭和芸能史の貴重な証言であり、薬物中毒の恐ろしさも描かれている。差し障りのあることでも実名表記されているので、なかなか難しいのかもしれないが、これもどこかで復刻して欲しい。

そういう脇の理由ならば、安易に品切れ・絶版にせず増刷を繰り返し行って来た、暮しの手帖社のおかげでしょう。
同社の社長の大橋鎮子は石井の学校時代の先輩で生涯親しい関係。
また創業者の一人で「暮しの手帖」編集長の花森安治の慧眼無くしては石井へ「暮しの手帖」への寄稿依頼は無く、また「巴里の空の下オムレツのにおいは流れる」の連載も無く、本の出版も無かったのですから。

もっとも、ひとつの信念を持った出版社である暮しの手帖社であっても、これだけ長い間発売されている単行本は他に無いようです。
やはり、「巴里の空の下~」が今日まで発売されて読まれているのは、それに値するだけの魅力を持った本であるから、でしょう。

(もしかしたら石井の歌のCDより入手し易いかもしれません。石井の遺した音源のCD化はあまり進んでいませんし、本人の魅力をしっかり捉えているとは言い難いベスト盤という名のCDが出ているぐらいです。CD時代のアルバムはそれぞれ魅力的ですが、入手が難しかったり品切れ・廃盤だったりします。)

残念ながら、この本の魅力のひとつといえる、花森安治による個性的な装丁は河出の文庫本では別のものに変わっているのですが、花森の装丁が苦手という方には助かるのかもしれません。

有り難いことに、引き続き(?)、今のところ単行本は暮しの手帖社から発売されているようなので
「花森装丁が良い」「文庫だと字が見にくい」という方は単行本を
「持ち歩きしやすい方がいい」「より手軽に読みたい」という方は文庫本を
という形で、うまく棲み分けされれば良いですね。
私は、やはり花森装丁に心を残している身なので、両方所持して気分によって読み分ける、という方法を取ろうと考えています。

暮しの手帖社・単行本
http://www.kurashi-no-techo.co.jp/index.php/books/b_1007.html

河出書房新社・河出文庫・文庫本
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309410937
◎解説=犬丸一郎(元・帝国ホテル社長)、堀江敏幸(作家・仏文学者)
犬丸は石井の弟である石井大二郎(実業家。昭和海運・元社長。1925-2005)の同級生で、姉である石井(好子)とも親しい付き合いがあり、石井のエッセイへも犬丸についてはちょこちょこと書かれています。

なお、来月には同じく河出文庫で、続篇・姉妹篇ともいえるエッセイ集「東京の空の下オムレツのにおいは流れる」が発売予定だとのこと。
http://www.yoshiko-ishii.com/yoshiko-ishii.com/information.html
こちらも併せて、手許に置いて楽しみたいものです。

石井好子の料理系のエッセイは、この2冊に文春文庫の「パリ仕込みお料理ノート」、まだ他にも
石井好子のヨーロッパ家庭料理(1970 文化出版局)
「石井好子・水森亜土の料理の絵本」シリーズ
  (卵とわたし/ご飯とわたし/サラダと私/ポテトと私 
         1978-80 女子栄養大学出版局→角川文庫)
があります。

あと、これは料理系ではありませんが、エッセイストとしての視点が光る
「私のプチ・トレゾール(小さな宝もの)」(写真:リウ・ミセキ 講談社 1987)
や、相次いで見舞われた、最愛の父と夫の死とそこから再起を誓うまでを描いた
「レクイエム涙」(1983 文藝春秋→文春文庫)
あたりも捨てがたいものがあり、これらの著書へも「巴里の空の下~」に続いて、再び光が当たることを希望して止みません。

もうひとつ。
石井好子は雑誌等の対談でも光り、エッセイとはまた違うかたちの石井好子の魅力があります。亡くなる3-4年前から随筆については急激に筆が鈍ってしまわれたようですが、話し言葉でのスピーチやその他短いコメント、インタビュー、口述では最期まで冴えていたようです。
もし叶うなら、それらの対談やインタビューを集めて、新たに編集して単行本や文庫本として出して貰えたらな、とも思っています。
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by hakodate-no-sito | 2011-07-07 01:29 | 歌・唄・うた | Comments(0)