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年齢不詳な若人が唄の話を中心にアレコレと・・・


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藤本義一の「女橋」

女橋。
"おんなはし"と読みます。
"おんなばし"と濁りません。

この「女橋」は藤本義一の小説です。
昭和30年代から40年代にかけて、藤本義一は映画やテレビドラマの脚本家として活躍していました。
テレビ番組「11PM」の司会を機に、脚本依頼が減ったこともあり、小説の分野へ本格的に進出。直木賞を目指し、多くのエンターテイメント作品を世に送り出して行きます。

織田作之助を描いた「蛍」四部作完結した平成の初めあたりで小説執筆はひと区切り。
25年続いた「11PM」の番組終了も関係あるのかもしれません。
これ以降は人生訓や社会への警句を発した、功名成し遂げた立ち位置を利用したエッセイや後進への指導、阪神淡路大震災の被災孤児のために設立した児童厚生施設「浜風の家」の運営などを行い、ついに「また書きたい」と執筆を公言していた井原西鶴や川島雄三の小説は書かれずに終りました。

直木賞作家でもある藤本義一ですが、現在その小説を新刊で入手することは殆ど不可能となっています。
幸い、今年に入って直木賞受賞作「鬼の詩」や川島雄三との日々を描いた「生きいそぎの記」などを収録した文庫本が河出書房新社から発売されています。興味のある方は手にとって見てください。

藤本義一の小説の特徴は、まず素材の面白さです。
芸人、やくざ、詐欺師をはじめとした、世間的にはアウトローやアウトサイダーに分類される人々。
あと、身体障害者。そしてセックス関係(不倫・浮気から主婦売春、サディズム、同性愛まで)。
世間から醒めた目で見られる人々、本人は大真面目なのに端から見ればどこか可笑しい人々を、異様なまでの執着心で扱い続けています。

藤本義一小説の特徴は、それらの素材の調理ぶりです。
映画やテレビ・ラジオドラマの世界で数多くの脚本を手掛けて来た人なだけに、映像が浮かぶような描写が特徴的、光っています。
そして、話の運び。場景がより鮮やかなものになるか、話の展開にキレが出るかどうか、が念頭に置かれた結果、もうひとつのエンターテイメント作品に昇華されてゆくのです。

私感で申しますと、藤本小説の全盛期は何と言っても昭和40年代。
それ以降は直木賞授賞で目標達成したことも関係あるのか、ゴミゴミとした独特のエネルギーやキレは徐々に失われていくように思えます。

さて、この藤本義一の「女橋」は昭和45年から46年にかけて週刊誌連載された作品です。
藤本義一が直木賞授賞を目指し、小説に力を入れ、上昇気流にあった時期のもの。文庫本に掲載された解説によると、藤本初の週刊誌連載でもあったそうです。

17歳、水揚げ前の芸妓・佐原ちよが、置屋の主人である養父の刃傷沙汰に巻き込まれ、両腕を切断されながら、殺傷された6人のなかで唯一命を助かります。
両腕が無いなか、様々な創意工夫によって得意の踊りに生きがいを見出し、地方回りで大金を稼ぎ、今後の生活に安定を見出したところで、家族が詐欺に逢い、一家離散の憂き目に。
そんな中で出逢った新進気鋭の日本画家・谷口に求愛される・・・

というのが、おおまかなあらすじです。

「女橋」は大衆小説、女の半世記、成長小説として光るものがあります。
映像的な文章、時に冷厳なまでの地の文での鋭い視点、時折書かれる名言、畳み掛けるような主人公への困難。
読み終わるまで息をつかせぬものがあります。

この作品、活字を映像化したテレビドラマを、活字化というかたちで再変換・発展させ、逆輸入したような小説なんですよね。それも帯ドラマを。連続テレビ小説と呼ばれていた、昭和時代のもの。

(未見ですが市原悦子主演で、昼ドラ化されているそうです)

脳内でシナリオを作り、脳内で映像化する。そして、それを活字化=小説とする。
藤本義一が映像作家であるからこそ成し得た作品です。

シナリオではなく、純然たる小説とも、ノベライズとも手触りが違う。
藤本義一の才気が光る一作であるとともに、代表作として挙げるにふさわしいものであることを断言いたします。

藤本義一、高額で買うような作家ではありませんが、中古のワゴンセールに並んでいたら、手にとって読みたい、他人にも読んで欲しい作品がいくつもある作家です。
by hakodate-no-sito | 2013-11-14 00:29 | 読書感想