年齢不詳な若人が唄の話を中心にアレコレと・・・


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希望という名の・・・

およそ10年ぶりの再会だった。

少し前、Amazonのサイトを特に考えもなく覗いているうちに、ふと思い立ち岸洋子で検索をかけた。
そうしたら、そのアルバムが有ったのだ。

岸洋子「希望」
KICS-301/302
1993年2月24日発売。

岸洋子の追悼盤だ。
1992年12月11日に亡くなったので、およそ没後3か月に出た計算になる。

岸洋子のベスト盤は今も昔の山のように発売されているが、選曲がしっかりしたものというのは残念ながら多くない。

このアルバムは初吹き込み曲から最晩年の歌声までで構成されたオールタイムベスト。
岸洋子の真髄と定評があったライブ音源とスタジオ録音が、それぞれ半々で収録されていて、聴きごたえは抜群。CD-BOXを買わなければ聴けない歌もしっかり収録されているところも嬉しい。

ブックレットも豪華で、「思い出のアルバム」と題したミニ写真集と、歌詞やプロフィール、ディスコグラフィ(残念ながら漏れが多い)に交友があった人たちの寄稿が載ったものと2種類。

寄稿している面々は和田誠、岩谷時子、下重暁子(元NHKアナウンサー、作家)、武藤辰彦(読売新聞記者)、安倍寧(音楽評論家)。

和田誠は、岸洋子のステージの構成演出も行っていることもあって、他の人たちよりも文章が長い。クレジットはないが、追悼盤の制作にも関わっているのかもしれない。であれば、このツボを心得た選曲も納得だ。


18歳の初夏、長い坂道を登って着いた、住宅街の中にある小さな図書館で、私はこのアルバムを聴いた。
それ以前に岸の代表曲「夜明けのうた」を聴いて、素晴らしい歌手であることは認識していた。

東京へ出たとき、地元・函館では出来なかった、自分が気になるs歌い手のCDをたっぷり聴きたい、と図書館めぐりをしていた中での出会いだった。

結果、岸洋子は私の中で確固たる存在になった。
「想い出のソレンツァーラ」「黒い鷲」に、山形弁で歌う「ラストダンスは私に」が耳について離れなくなった。

10年経ったいま、こうして、想い出のアルバムと再会してみると、どうしてこの歌をきちんと聴いていなかったのだろうと思う曲だらけだ。


岸洋子のお国・山形の歌「最上川舟唄」。
(この歌は、その後岸洋子出演の歌番組「ビッグショー」の再放送や、ダークダックス版で気に入った覚えがある)

ミレイユ・マチューのヒット曲「別れの詩」。
(これは伊東ゆかりの還暦コンサートで岸洋子の想い出話やレコーディングまでしながら権利関係で新アルバムに収録できなかった裏話を交えて、披露されたのを聴いてから気に入る。岸版自体はそれから何年も経って、20周年リサイタルのライブ盤を聴いてからスッと染みてきた)

シャンソンの中でも古い歌のひとつ「さくらんぼの実る頃」。
(CD化されていないが高英男の歌唱が絶品。岸洋子もこの歌がお気に入りで自叙伝の題名に使ったほど)


・・・挙げていけばきりがない。

年齢を重ねてから聴いて、どうしてこんなものが好きになったのかと苦笑してしまうものもあるが、岸洋子の場合はどんどん染みてくる。


2枚組のCDは「新しい世界」という歌で〆られる。
作詩:和田誠 作曲:佐山雅弘

91~92年のライブから取られたと思しき、最晩年の歌声。おそらく最後のオリジナル曲。
89年に倒れ、2年間の休業を経て91年に復帰した岸洋子。
往年のように声量豊かに歌い上げることも、伸びやかな高音も、そこにはない。
にもかかわらず、圧倒的なスケール感。奥行きがある。ぐいぐいと迫ってくる。

肉体的なハンディを乗り越え、歌い手として最後まできらめきを放ち続けていたことが、わかった。

10年前の私は、「最晩年は声も出なくなって可哀想」なんて思って、封印してしまったのだろう。
不明を恥じるばかりだ。

岸洋子のライブ盤は何枚か持っているが、どれも素晴らしい。
特に20周年、25周年のアルバムは愛聴盤として、携帯音楽プレーヤーやiPhoneには常にしのばせて、いつでも聴けるようにしてある。

この最晩年のライブも聴いてみたい。


聴いてみたいというと、岩谷時子の寄稿文(これがまた泣かせるのだが)にこんなくだりがある。

>私は一つの約束をしたことがある。
>「東北の民話を、いくつか選んで詞にするから、その土地の言葉で歌ってみない?何年かかってもいいじゃない」
>「うん、面白そうね」
>そう言っていたのに、岸さんは、いなくなってしまった。

岸洋子と岩谷時子の相性は、「夜明けのうた」と「黒い鷲」を聴けばわかるが抜群だ。
実現していたら、新派作品を歌にした「ATASHI」(水谷良重)のような、他に類がない、素晴らしいアルバムが出来上がっていたに違いない。

惜しまれてならない。
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by hakodate-no-sito | 2015-11-07 21:09 | Comments(0)

愛の讃歌

これぞシャンソン、という曲をひとつ選んで下さいというと必ずと言って1位に上るのが「愛の讃歌」。
シャンソンって何?という世代でも、「愛の讃歌」という題名ぐらいはまあまあ御存知。
近年だと、美輪明宏の歌唱がクローズアップされていて、今年は朝ドラ「花子とアン」でも挿入歌として使用、紅白歌合戦でも美輪明宏の歌声で披露されるそう。「愛の讃歌」旋風は年明けも続くのだろうと予想。

昨日、玉置浩二の「群像の星」というアルバムを聴いていたら、「愛の讃歌」も収められていた。
岩谷時子の詩が生きた、現代の上質のラブソングとして結構なものだった。

それを聞きながら、さて自分は、エディット・ピアフ、越路吹雪の東西横綱・本家はさておいて、誰の「愛の讃歌」が気に入っているのだろう、どんな人の「愛の讃歌」を聴いてきたのかという考えが頭をよぎった。

iTunesで調べてみると、のべで90。同一音源もあるので、それを除外しても65ぐらいは行くのだろう。
同じ歌手でも別音源も多い。越路吹雪だけでも5、6テイクあった。

思い付くまま、5人挙げてみる。

まずは淡谷のり子。1950年代と早い段階から唄い出しレコードにも入れていて、東芝時代には鈴木章治の伴奏で唄ってもいる。私が好きなのは70歳半ばになってから、ピアノ伴奏だけで唄ったもの。晩年の淡谷の活動拠点・渋谷ジァンジァンでのライブレコーディング。

淡谷と共に三大女王と称された(もうひとりは渡辺はま子)二葉あき子も忘れ難い。知っている人はそう多くないが、二葉もシャンソンに対する関心があって、世間からはなつめろ歌手扱いされていた昭和40年代にフランシス・レイを歌ったアルバムを発売している。最後のシングルとなった「星ふるデッキで」のカップリングは、長く持ち歌にしていたシャンソン「パダム・パダム」。90年代前半、フランスの小さな音楽酒場で唄ったこともあるのだ。
越路吹雪が「愛の讃歌」を歌うことになったきっかけは、喉を壊した二葉の代役である。「愛の讃歌」も二葉が唄う予定で、藤浦洸の訳詩も存在する。
1970年代中ばに発売されたライブ盤に収められている。ライブの構成演出は高英男。高によるオープニングナレーションや、二葉と高の対談もレコードでは聴くことが出来る。

二葉とも親交があった、日本におけるシャンソンの第一人者高英男も欠くことは出来ない。
寄席芸人的な面と、大劇場を沸かせるパーソナリティという、一見相反するような面を併せ持った唯一無二の歌い手だった。
全盛時代の1950年代に吹きこまれた歌声の爽風さは捨て難いが、1979年のライヴ盤に収められた完成された"高ぶし"で聴かせる「愛の讃歌」は、ファンとしては大向こうをかけたくなる。
歌手生活としては、晩年の位置にあたる1995年にテレビ番組「題名のない音楽会」で披露した、蒸留水のような透明さのなかに色艶を滲ませた魅せたパフォーマンスも胸をうつ。

日本で初めて「愛の讃歌」を唄ったとされるのが宝塚出身のシャンソン歌手深緑夏代である。宝塚時代、後輩の越路吹雪に岩谷時子と3人で親しくし、越路と二人組んで、進駐軍廻りも行っていたという。宝塚シャンソンというと、越路吹雪というイメージが世間では持たれがちだが、(橘薫という先達はいるが)本当は深緑夏代なのだ。後輩の指導も得意とし鳳蘭をはじめ、宝塚OGを多く育成している。
深緑の歌は情熱的であり、ドラマがある。背筋がぴんと伸びた、恰好良さがある。一般的には知られていないのかもしれないが、機会があれば深緑夏代の歌は聴いて頂きたい。
私が初めて生歌で聴いた「愛の讃歌」は深緑夏代。あの感激、震えは忘れられない。当時80歳を過ぎていたはずなのだが、エネルギーに満ち溢れていた。もう一度、聴きたい。

いま一人挙げたいのが、倍賞千恵子。諏訪さくらからは想像も付かないドラマチックな歌唱。SKD
出身であることを改めて確認できる。

他にも長谷川きよし、森山良子、菅原洋一(紅白でも1982年に歌っている)、岸洋子、宮城まり子、佐良直美、松尾和子、金子由香利、中原美紗緒、美川憲一、岩崎宏美、ミルバ、石井好子、クミコ、美空ひばり、由紀さおり、フランク永井・・・挙げればきりがない、層々たる顔ぶれが唄っている。私が失念して居たり、知らないだけでもっといるだろう。

ただ、やはり私にとっての「愛の讃歌」はエディット・ピアフであり、何より越路吹雪である。
他の「愛の讃歌」は別の歌に思える。
今年は越路の生誕九十年だったそうだが、遺された僅かな映像や、多くのレコードに収められたライブパフォーマンスを聴いても、一向に古さを感じさせない。時を越えて、いまなお燦然と輝いている。

♪いなくなった歌い手ひとり 声が残るだけ

越路を追悼して作られた曲「シャンソン」(歌ペギー葉山)が脳裏によぎる。
(http://www.uta-net.com/movie/101899/)
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by hakodate-no-sito | 2014-12-28 20:47 | Comments(0)